洗練と素朴

皆川明 - ミナ ペルホネン

熊谷幸治さんの小さな土器

土器作家、熊谷幸治さんのこの小さな器はすべて轆轤(ろくろ)で挽かれている。私の知る熊谷さんの作品は、古代の土器のような原始の力を感じさせる作品が印象的だったが、この作品群は、その原始の粒子のような人の仕事の微細なマチエールと、植物の生態のような生物のもつ素性のようなことを感じさせてくれる。

島根県石見地方のお面

お面の和紙を貼る前の姿は、そのフォルムにまだ生命を吹き込む前の静けさがある。その原型は長年、手に馴染みながら形成されたであろう、やわらかく無駄を省いた形に辿り着いている。

モリソン小林さんの鉄植物
・W28cm×H28cm

モリソン小林さんのように自然を見つめる眼差しと精緻な手の技に出会えたことを感謝している。モリソン小林さんから生まれるものは空想ではなく実際に彼が辿った景色の体験から生まれている。だから彼が感じた空気が作品に漂っているのだと思う。

モリソン小林さんの鉄植物
・W20cm×H28.5cm

チェコの針山

その無造作な佇まいは、針仕事に熱中し、無頓着に刺したであろうことを想像させる。まち針も、昔の趣きのある不揃いな形と長年によって偶然に集まったであろう色とりどりが、素朴な表情をつくっている。

しょうぶ学園 森節子さんのオブジェ

自由が自由のままであることは稀である。知識や経験は私たちの手の自由を奪いながら過去を刷り込もうとする。その制約を必要としない揺るぎない自由な心を私は尊敬している。

G.Lorenziの貝型ナイフ

具象を模した道具にはその自然な形から譲られた温かさが宿っている。貝は自然の法則に従って形成された生物のひとつゆえ手に馴染む。それを使うことで私たちは自然と共感している。

小山 剛さんの木製小箱

木は育った環境を自身に刻む。それは生命の過程であり歴史でもある。その生命と環境の出会いを小山さんは新しい形へと昇華させていく。その仕事は木に耳をすませてたずねているかのようだ。


皆川明 - デザイナー

1967年生まれ。1995年にファッションブランド「minä(現minä perhonen)」を設立。
時の経過により色あせることのないものづくりを目指し、服にとどまらず家具や器など日々に寄り添うデザインを手掛ける。
テキスタイルデザイナーとして、デンマークのKvadratや、スウェーデンのKLIPPANなどの
テキスタイルブランドへもデザインを提供している。
2006年毎日ファッション大賞、2015毎日デザイン賞、平成27年芸術選奨美術部門文部科学大臣賞受賞。
主な著書に『皆川明の旅のかけら』(文化出版局)、『ミナを着て旅に出よう』(文春文庫)、
『はいくないきもの』(クレヨンハウス。文:谷川俊太郎、絵:皆川 明)などがある。