日用美品

井出 幸亮

津高和一の画集『架空通信』

明治生まれの美術家・津高和一〔1911-1995〕の画集で、ほとんど落書きのようなモノクロームのドローイングばかり収録されたものですが、造本とレイアウトデザインが実にシンプルで、ひとつのオブジェとしても美しいものです。ギリギリまで削ぎ落とされた、意味を持たない抽象表現をぼんやりと眺めていると、ロジカルな思考で複雑化した頭の中を掃き清め、解してくれるような気がして、いつもそばに置き、時々手に取って頁を捲っています。

ディランⅡのアルバム『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』

職業柄もあり、紙の質感が大好きなのですが、大阪のフォークロック・グループ「ディランⅡ」の1972年のアルバムのレコードジャケットは、ざらりとした臙脂色の紙、モノクロの風景写真、歌詞カードの文字組に至るまで、すべてのデザインが彼らの奏でる音の素朴さや寂寥感、時代の空気と絶妙にリンクし、プロのデザイナーには出せない独特の魅力を感じます。ちなみにジャケット表面に一切の文字がないアルバムは意外と少ないものです。

箱入りのジャイロスコープ(地球ゴマ)

「Gyroscope」とは物体の角度や角速度などを検出し、船や飛行機などの姿勢制御に使われる「回転儀」のことで、20世紀初頭にはこれを応用した科学玩具が登場しました(日本での呼称は“地球ゴマ”)。こちらは1930年代頃、アメリカのチャンドラー社のもので、丁寧な作りの紙製の外箱に一切の社名やロゴ、商品名がなく、夢のあるイラストが描かれているのがいい。コマーシャリズムが浸透する以前のアメリカのものづくりが感じられます。